従業員を雇用するときに必要となる労働条件通知書の作成方法や注意点を解説

従業員を雇い入れるには、労働契約の期間や賃金、退職等に関するさまざまな労働条件を定める必要があります。労働条件は会社が自由に決めてよいわけではなく、労働基準法をはじめとする労働関係諸法令で、基準や明示方法について定められています。

当記事では、労働契約締結の際に作成交付する労働条件通知書について解説するとともに、労働契約や労働条件についても解説を行っているため、労働者の雇い入れを考えている方は、ぜひ参考にしてください。

 

 

労働契約とは

 

労働契約法では、労働契約を次のように定めています。

 

(労働契約の成立)

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

引用 e-Gov:「労働契約法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128

 

労働契約ではなく、雇用契約と呼ぶ場合もありますが、内容に違いはありません。いずれも会社と労働者がどのような労働条件で働くかについて合意し、会社が労働者に賃金を支払うことを約して成立します。

 

 

労働条件の明示事項

会社と労働者が労働契約を締結するためには、まず合意の対象となる労働条件を事前に定め、労働者に明示する必要があります。明示する労働条件には、労働契約の期間や、賃金等必ず明示しなければならない絶対的明示事項と、退職手当等会社に定めがある場合には、明示が必要となる相対的明示事項の2つがあります。

 

 

絶対的明示事項

 

労働条件の絶対的明示事項は次の通りです。

 

・労働契約の期間に関する事項
・期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
・賃金(退職手当等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
・退職(解雇の事由含む)に関する事項

 

 

相対的明示事項

 

労働条件の相対的明示事項は次の通りです。

 

・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与その他これに準ずるもの並びに最低賃金額に関する事項
・労働者に負担させるべき食費、作業用品等に関する事項
・安全及び衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・休職に関する事項

 

またパートタイム等短時間労働者を雇入れる際には、上記の事項に加えて、次の事項の明示も必要です。

 

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口に関する事項

 

 

労働条件が労働基準法で定める基準に達しないときはどうなる?

労働条件は、会社が自由に決定することはできず、労働基準法で定める基準の範囲内であることが必要です。労働基準法で定める基準に達しない労働条件は無効となり、無効となった部分の労働条件は、労働基準法で定める基準に引き上げられます。

 

民法では、契約中に公序良俗違反等強行法規に触れる部分があれば、契約自体が無効となりますが、労働基準法では労働者保護のため。この原則に修正を加えています。

 

 

労働条件通知書を作成し交付しなければならない

労働条件通知書とは?

労働条件の絶対的明示事項のうち、昇給を除く事項は口頭では足りず、書面の交付による明示が必要です。そのため、労働契約締結の際には、労働条件を記載した書面を作成交付する必要があり、これを労働条件通知書と呼びます。

また、2019年からは、労働条件通知書の書面による交付だけでなく、FAXやメール、SNS等電磁的方法での交付も可能となりました。

 

労働条件通知書と労働契約書との違い

労働契約自体は、書面等によることなく口頭でも成立するため、労働条件通知書と異なり、労働契約書の作成は義務付けられていません。ただし後のトラブルを防止する意味でも労働契約書を作成し、会社と労働者双方が保管することが一般的となっています。

また、労働契約書と労働条件通知書は、個別に作成する必要はなく、労働契約書兼労働条件通知書として作成することも可能です。

 

労働環境の作成方法

書面による労働条件通知書の作成には、様式は定められていないため、必要となる事項が記載されていれば、どのような形式でも問題ありません。雛型やフォーマットが公開されているため、自分で作成することも可能ですが、難しいと感じた場合には、社会保険労務士等の専門家に依頼することを検討してください。

 

労働条件通知書の作成に当たっての注意点

労働条件通知書の作成に当たっては次のような注意点があります。

 

(1)記載内容の注意点

労働契約の際に明示された労働条件が事実と異なる場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができるため、後のトラブルを防止する意味でも記載する内容については注意が必要です。また労働者が就業のために転居を行っていたのであれば、契約解除から14日以内に帰郷する場合、会社は必要な旅費を負担しなければなりません。

 

(2)保存期間の注意点

労働条件通知書は、労働者名簿や賃金台帳等と同様に、労働関係に関する重要な書類に該当するため、5年間(経過措置により当分の間3年間)の保存期間が定められています。

 

(3)短時間労働者の場合の注意点

パートタイム等の短時間労働者に対しては、絶対的明示事項に加えて、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口に関しても書面等による明示が必要となります。

 

(4)電磁的方法による場合の注意点

電磁的方法で作成する場合には、労働者本人が希望している場合でなければ、交付が認められないことや、プリントアウトできる形式でなければならないことにも注意が必要です。また本人のみが確認できる状態での交付が必要であり、ホームページやブログへの掲載は認められません。

 

(5)罰則があることに注意

労働条件の明示義務に違反した場合には、労働基準法120条により、30万円以下の罰金が科せられる恐れがあるため、適正に作成交付する必要があります。

 

 

まとめ

労働者にとって賃金等の待遇を定めた労働条件は、働く上で非常に重要な要素となっています。そのため、労働契約締結の際に交付される労働条件通知書は、適正に作成交付される必要があり、もし内容に不備があれば契約解除等のトラブルに繋がりかねません。

当記事では、労働契約や労働条件、明示事項等の労働条件通知書を作成する上で、重要となる事項について解説を行ってきました。そのため、労働条件通知書の作成が必要となった際には、ぜひ当記事を参考にして、会社と労働者双方にとって良好な関係を築ける労働条件通知書を作成してください。